愛を教えて ―番外編―
(何も、こそこそする必要なんか……私に内緒で美馬に会いに行った万里子が悪いんだし……)


往生際が悪いと思いつつ、口の中で呟いた。

だが、もし万里子が本気で離婚を考えていたら……想像するだけで卓巳はひざがカタカタと笑いはじめる。

この大きな屋敷にたったひとりで取り残される恐怖が卓巳を襲った。


『万里子……寝てるのか? 具合が悪いなら、私が医者を呼んでこよう』


恐る恐る声をかけた卓巳に万里子の返事は……。


『随分、お早いお帰りですね』

『それは、本社に寄ったんだ。その……仕事が残っていて』


ひょっとして万里子は万里子で、卓巳を怒らせたと気にしていたのかもしれない。

話し合いをするために帰りを待っていたのだとしたら? そう思うと、にわかに元気が出てくる。


『遅くなってすまない。美馬のことはもう気にしていないから……。お互いに意地を張り合うなんて、子供じみた真似はやめよう。――愛してるよ、万里子』


四人産んで少しはふくよかになった万里子のボディラインだが、まだまだ充分に魅力的だ。いや、卓巳にすれば、万里子以外に性的官能を覚えた女性などひとりもいない。

彼の人生から万里子を失えば、おそらく生涯、女性に触れることはないだろう。

卓巳はそんな思いを込めて、万里子に抱きついたが……。


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