愛を教えて ―番外編―
子供たちの後方から現れた女性を見て、卓巳は息を飲む。

宗から聞いていたが……。宗を見ると、卓巳以上に青ざめている。


「あ、藤原さん、紹介します。主人の秘書である瀬崎さんの奥様、香織さんです。……おふたりとも、瀬崎さんのご主人とは面識があると聞いてるんですが、香織さんのことはどうなのかしら?」


愛実は屈託ない笑顔で、卓巳と宗に向かって香織を紹介した。藤原本社に勤めていたことは知っているが、宗との関係までは知らない口ぶりだ。


香織のほうは大して驚いている様子はない。


「ご無沙汰しております。結婚して、名前が瀬崎になりました。――主人がいつもお世話になっております」


そう言いながら、ゆっくりと頭を下げた。


香織は卓巳と変わらない年齢だったはずだ。藤原本社の秘書室にいたときは、どこかギスギスした印象だったが、今は角が取れて艶めいて見える。


「瀬崎氏は秘書としてだけでなく、経営者としての才覚もある。ぜひ、引き抜きたいくらいだ。それに、君も優秀な秘書だったが……。うちにいた時は世話になったね。今は幸福そうで何よりだ」

「まあ、お世辞でもうれしいですわ。でも主人は、こちらの美馬さんのご主人と、実の兄弟のように仲がよくて……。藤原社長と宗さんみたいなんですよ」

「仲が悪いとは言わんが……宗を兄と思ったことは一度もないぞ。どちらかと言えば、反面教師というヤツだな」


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