愛を教えて ―番外編―
「フィールドではチームのために、真剣に戦うだろう? 敵チームに友だちがいても、手を抜いたりしないはずだ」


卓巳は自分のコテを万里子に渡すと、子どもたちのほうへ足を進めた。そのまま、北斗の前に屈み込む。そして少年の肩に手を置き、穏やかに話し始めた。


「君のお父さんとおじさんとは、二十年も前から友だちなんだ。でも、それぞれの会社を背負って、同じフィールドで戦うライバルでもある」


北斗はじっと卓巳を見つめ、口を開く。


「でも……みんな、美馬が悪いって言うんだ」

「それは、この幼稚園にはおじさんの……藤原の味方が多いからだよ。好きなチームを応援するとき、思わず、敵のチームを『やっつけろ!』と言ってしまうことはないかな? ――君のおじいさんがレッドカードで退場して少なくなった選手の分も、君のお父さんは頑張っている。君は美馬の名前を誇りに思い、お父さんを応援するべきだ。それも、『藤原を潰せ』ではなく、『お父さん頑張れ』とね」



騒ぎを聞きつけて、焼きそばコーナーを取り囲む数人の保護者がいた。

彼らは卓巳の言葉に顔を背ける。

いつの間にか、体育館で行われていたオープニングセレモニーも終わったらしい。出席していたはずの園長や理事長の顔も見えた。それぞれに申し訳なさそうな顔だった。


< 241 / 283 >

この作品をシェア

pagetop