愛を教えて ―番外編―
【君の心に咲いた花】
「自由が丘ですか?」

「ああ、大学の先輩なんだ。企業法専門の弁護士でね。今、フジワラ・ロンドン本社が社運を賭けたプロジェクトを仕掛けている。その件で色々相談に乗ってもらってるんだ」


再び心を通わせ、ふたりは二週間遅れの新婚生活をスタートさせた。そして、卓巳は久しぶりに万里子を助手席に乗せ、BMWを走らせていた。

行き先は自由が丘にある弁護士先生宅。卓巳が実務修習で世話になった方で、ハーバードのロー・スクールLLMコースを首席で卒業した人物だという。


「一条先生のおかげで企業法に興味が持てた。彼はHBS……ハーバードのビジネススクールも出てる変わり者でね――」


万里子は卓巳の嬉しそうな声に驚いている。

そんなふうに人のことを話すのは珍しいからだ。悪意に満ちた人間に囲まれ、卓巳は孤独に生きてきた。でも、彼にも親しい先輩がいたのだと、万里子はホッとする。


「でも……そんなに親しい方でしたら、結婚式に出ていただきたかったですね」

「ああ、招待はしたんだが、夫人の体調がすぐれないとかでね。未就学の子供がふたりいると聞いている」

「まあ、それなのにお邪魔しても構わないんでしょうか?」

「もう大丈夫だと言っていた。第一、向こうからの招待なんだ。伺わないほうが失礼だろう?」

「でも、こんな格好で?」

「なぜかドレスコードがデニムになってるんだ……僕のせいじゃない」


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