愛を教えて ―番外編―
そんな卓巳に、万里子もだいぶ慣れてきている。卓巳が望むならお風呂で愛し合ってもいいと思うくらいに。

問題はその場所と誘い方であった。

キスしてそのまま押し倒すのではなく、上手くは言えないが……もう少し万里子の気持ちを考えて誘って欲しい。女性が恥ずかしくない場所、それでいて『ノー』と言えないようなムードで求めて欲しいのだ。


女性の『イヤ』や『ダメ』は“本気のとき”と“そうじゃないとき”がある。

卓巳にもそれをわかって欲しいと思うのは贅沢なのだろうか。


(それとも……卓巳さんは人に見られるような場所で愛し合いたいの?)


もしそうなら、とても万里子には応じられそうにない。



万里子は少し開いた窓を一杯に押し開けた。

四月の夜風はまだまだ冷たい。温まった肌がキュッと引き締まる。少し身震いして湯船に浸かりなおそうとしたとき、隣の月見台に人影が見えた。

卓巳だった。

木の手すりに腰掛け、ボンヤリと月を見上げている。浴衣に丹前《たんぜん》を羽織っただけの姿なのに、素晴らしく様になっている。こんなに素敵な男性が夫だなんて、万里子には夢のように思えてならない。


(だから……何もかもが不安なのに)


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