愛を教えて ―背徳の秘書―
あとは簡単だ。怪我を理由に宗の身体に触れ、少しずつ劣情を高めてやればいい。

案の定、ファスナーを下ろしたときにはすでに半勃ちであった。


あそこから引き下がれる男はほぼゼロ――過去に藤原卓巳ただひとり。


朝美とのセックスを知っている宗なら、あのままセックスに縛りつけることは簡単なはずだった。

そして、彼がシャワーを浴びに行った隙に、宗の携帯から香織に電話をかける。それだけで香織なら怯むだろう。決め手は、この有休の間に結婚式場を押さえ、関係者に招待状を送り届けてしまう算段だった。

体裁を気にするであろう宗に、『式だけ挙げて入籍はせず、すぐに別れたことにすればいいじゃない』そんな台詞まで準備していたのに……。


最初の誤算は宗がコンドームを使ったことだ。

ギリギリで寸止めをしたつもりだった。あの状態から、そんな理性が残っていたことは不思議でならない。危険日ではないし、本当に妊娠する気はなかったが、宗がすぐに招待状を撤回しようとしたとき、足止めの意味があった。

社長からの電話も予定外だ。あれで宗の欲情が萎えてしまったのである。


だが、一番大きいのは“雪音”の存在。本命はいないと思ったからこその計画だった。宗なら、セックスの自由さえ保証してやれば結婚は容易だと思ったのだ。

だが、あの手の男が一旦、愛だ恋だといい始めると厄介なことを知っている。仕事すら犠牲にしかねない。


しかも、雪音はあの万里子のお気に入りだ。下手に手を出せば、朝美が社長の不興を買ってしまう。


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