愛を教えて ―背徳の秘書―
志賀香織(しがかおり)、若く見えるが今年の五月で三十一歳になる。

藤原グループ系列企業の社長秘書だった彼女は、三年前に寿退社した。ところが二年足らずで年下夫の浮気が発覚して離婚。その後、推薦を受けて、現在はF総合企画の契約社員として秘書室に勤務している。

香織は平均より少し高めの身長で、シャープな顔立ちをしていた。髪も、以前のセミロングを離婚後にバッサリ切ったらしい。今は後ろだけスーツの襟首にかかるくらいの長さだった。

フレームレスの眼鏡をかけ、いつもモノトーンのスーツを着て、上品だが地味なファッションを好む。

契約社員の香織は、デスクワークと来客の応対が主な仕事だ。重役秘書に欠員ができたときだけ社外にも同行するが、そんなことは滅多になかった。

社内では、国立大学卒の才媛だが、結婚でキャリアを棒に振ったというのがもっぱらの噂だ。

美人だが男日照りの女教師――若手の男性社員は香織のことをそんなふうに言っていたように思う。



もともと宗は秘書になるつもりは全くなかった。

今から約七年前、宗が弁護士になって半年目のこと。彼は事務所を辞めざるを得ない事態となる。

原因は言わずと知れた“女”だった。


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