愛を教えて ―背徳の秘書―
「社長には伝言を残してきたんでしょう? 何かおっしゃってた?」


朝美は全裸のままカウチソファに横たわり、宗が戻るのを待っている。一度で満足する女でないのは宗もよく知っていた。


「ゆっくり休め、だそうだ」

「じゃあ、お言葉に甘えてそうしましょ。ね、ベッドでゆっくり楽しみましょうよ」 

「俺は呼び出しだ」

「あら……残念」


宗はネクタイを締めなおし、上着を羽織って玄関に向かう。

元々、ネクタイすら外していなかった。朝美の口で攻められ、抵抗する間もなく陥落したのだ。正直、朝美から逃げられるのか……不安になってくる。


「ねえ、ユキ。あなた、セックスの最中にどうして自分の名前なんて口にしたの?」


動揺を隠し切れたかどうか自信がない。「聞き違いだろう」そんな言葉をつぶやきながら、宗は朝美のマンションを後にした。



宗は虚ろなまなざしのまま、マンションから出てタクシーを拾う。

そんな宗の背中を、ひとりの女が見つめていたことなど、気付くはずもないのだった。



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