愛を教えて ―背徳の秘書―
コーポといえば聞こえはよいが、そこはどう見てもアパートだ。階段を上がると長い廊下があり、四枚のドアがある。

朝美から渡された紙には二〇一号室の文字が、どうやら一番奥らしい。


『彼女、今日は体調不良でお休みらしいから……。家にいらっしゃるんじゃないかしら』


おそらくは宗の寄越した男性社員に聞いたのだろう。

雪音は手ぶらで来たことを後悔したが……今さらである。


もし、香織の言うことが朝美と同じであれば、宗という男の言葉に信じる価値はない。そのときは、きっぱり忘れられるはずだ。

雪音はそう自分に言い聞かせ、顔を上げた瞬間だった。


二〇一号室と書かれたドアが開き、ふたりの人間が姿を見せる。



「君に、許してもらえて……本当に感謝してる。約束は必ず守るから」

「浮気は二度としないこと。綺麗に別れられない男は、プレイボーイには向かないわ」

「ああ、骨身に沁みてるよ」


それは、親密そうに笑い合う宗と香織だった。


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