土の子と風の子
土の子と風の子
青い青い地球の、空と大地の間に、風の子と土の子がおりました。
ふたりは毎年季節が変わるごとに、神様に、その季節の風と、その季節に咲く草花の種を届けに行くのでした。

やがて長い厳しい冬が終わりを告げ、そろそろ春の準備を始める頃合いになったある日のことでした。
「ようし、そろそろ冬が終わるぞ。神様に、春の草花の種を持って行かなければ。」
すっかり身支度を終えた土の子が、どっしりと立ち上がりました。
自分の住処にしている大きな山の中にある洞穴から外へ出ると、冬の凍りつくような風を思いきり吸い込みました。
「ようし、行くとするか!」
土の子はたいそう根がまじめであったので、神様の元への出発も、まだ冬が終わらない、春がまだちょっと先の頃から始めました。
そして、自分の足で一歩一歩大地を踏みしめながら、あわてずあせらず、ゆっくりと歩いて行くのです。
そうやって周りの景色を眺めていると、実にいろいろなものが見えてきます。
寒さをしのぎ、穴の中で丸くなっているキツネの親子や、春はまだかと辺りを見回しながらチョロチョロと飛ぶメジロの姿もありました。
土の子はそう言ったものを見ながらのっそのっそと歩いていました。
するとそこへ、ひゅーっと一陣の風が吹いたかと思うと、甲高い笑い声が辺りに響きました。
風の子です。
風の子はひゅーっと土の子の近くまで飛んで来ると、ふわふわと体を風に遊ばせながら土の子に言いました。
「やい、土の子。お前、もう神様のところへ行こうとしてるのか?」
土の子は足を止めずに、ゆっくりと頷きました。
「ああ、そうとも。わたしの足では今から旅立たねば、春までにはとうてい神様のところへは間に合わんからな。」
それを聞いた風の子は、けらけらと笑いました。
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