平凡太~ヘイボンタ~の恋
「少し、歩こうか?」


「ハイ」


春の夜風はどこからか花びらを連れてくる。


時期の終わった桜の花びら。


「忘れないで、って」


「え?」


「忘れないで、って言ってるみたいね?」


「何が、ですか?」


ボクが問うと一華先輩は地面に落ちた桜の花びらを拾った。


「桜。忘れないで、って」


それだけ言うと一華先輩は喉を詰まらせた。


街灯が頬をつたう涙を見せる。


「一華…先輩…?」


「ゴメンネ。話すから、待って?」


一華先輩は歩きながら流れる涙を拭おうともせず、桜の花びらをぎゅっとこぶしに押し込めた。
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