才能のない作曲家




今はまだ、彼女との思い出を振り返ることが出来ない。
それをすれば、きっと僕はこの場所から逃げ出し、彼女の守りたいものを壊してしまうから。




空を見上げて君を思う。

この、パリの空も、君だと思えば愛せる。

僕に残された、スーツケース1個とわずかな金。

言葉も全くわからないこの土地で、僕は人生で二度目の『独りぼっち』になってしまったらしい。




「く…ぅ…ッ」



自分で自分に驚く。

寂しい。
寂しくて寂しくて、壊れそうだ。

独りなんて慣れっこだと、そう思っていたのに。

誰からの理解も求めていなかったあの頃、僕は何も怖くなんてなかった。
僕は独りでも幸せだった。

それなのに――。






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