フライングムーン
あれからしばらくして私は「家」という「自分の心」からようやく自由に出られるようになった。
あの日の彼の言葉を思い出す。
“君もここから出たからと言って君じゃなくなるわけじゃないだろう?”
彼の言った通り、私は家から出ても私だった。
あれから私は彼の言葉を胸に、ピアノの練習をした。
曲もたくさん書いた。
いつしか「彼の為に」というわけではなくなってしまったけれど、私は決して音楽から逃げなかった。
そして今日は私の初めてのコンサートの日。
例え彼がどこかで今の私の事を知って会場に来て居ても来て居なくても、例え空にフライングした月が出ていても出ていなくても、私はピアノを弾く。
もちろん家の外で。
今日は特別に彼の為に…。
そして自分の為に…。
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