【掌編集】魔法使と少年少女。
 

「……怖い?」

 笑った顔のままクロウがルルゥを見据えた。

「少し、ね」

 そう、怖い。言葉にして自分の中にある不安に気付く。ルルゥは目を伏せた。

「大丈夫」

 しっかりとした優しい声がした。クロウの唇が瞼に落ちるのを感じながら、ルルゥはクロウにすがる。引き寄せる。抱きつき、しがみつく。

「もっと言って……!」

 足りない。足りない。言い知れぬ不快感が足元から這い上がってくる。振り払いたくても体は震えるばかりだった。いくら雨で体が濡れているせいにしようとしても、だまし通せないほどの震え。
 これから自分がどうなるのか、この力をどうしたらいいのか、わからない。

「大丈夫だよ。ルルゥ。……君は」

「……もっ、と」

「君は、ジョーカーみたいにはならないから」

「――――……え、今なんて?」

 目線を上げたルルゥが見たクロウの目は、遠くを見ていた。
 これは過去を見ている眼だ。
 ルルゥは思い出す。
 戦場で倒れた戦友たちが死の淵で同じ眼をしていたことを。

(……なんだ? ジョーカー…って)

 

 触れてはいけないものに触れてしまいそうだった。




 やがて雷鳴が遠ざかっていってしまったあとも、二人はしばらく硬直したようにただ抱き合っていた。
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