好きになっても、いいですか?

矢野が最後まで、『ありがとう』と言って帰った後、一人企画課の室内で麻子はコピー機と対面していた。


「あれっ?今度はここにいるのかい」


その声を聞いて振り向くと、廊下からドアを半分開けて、清掃のおじさんが覗きこむようにしていた。


「おじさん!まだ仕事してたんですか?」
「今日はワックスがけの日だからね。お嬢ちゃんの移動先って、企画なのかい?」
「いえ。秘書課ですけど、ちょっと事情が」
「へぇ……大変だなぁ。あ。昼間はありがとうね!今度なにかお礼するから!」
「お礼なんていいですよ」


そんな話だけすると、すぐにおじさんはまた忙しそうに麻子の元から去って行った。

また一人になった麻子は、手元の原稿を見てぽつりと漏らす。


「意外に時間かかるかも、これ……」

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