好きになっても、いいですか?

「ハッキリ言ってください」


課長鈴木のデスクの前まで歩いて、姿勢を正してストレートに問い質す。
その麻子に後押しされるように口を開いたのは泰恵だった。


「麻子ちゃんっ。私は寂しいけど……応援するからね!」
「はあ?」
「短い間だったけどっ……いつでもここに……」
「ちょ、ちょっと待ってください」


後ろから抱きついてくる泰恵の肩にそっと手を乗せると、今度は鈴木が麻子に言った。


「――異動命令です」
「えっ?誰に……」
「芹沢さんに――」


(う、嘘でしょ……)


麻子がこの異動を疑うのも無理はない。

入社して4ヶ月目。普通こんな中途半端な時期に異動などはない。
重要ポストや産休、育休ならばあり得るかもしれないが、重要ポストは麻子には当てはまらないし、全館を行き来する麻子の耳にも目にも産休育休の噂は入ってきたことはなかった。


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