好きになっても、いいですか?
「それは本心じゃないな」
「……本心です」
図星をつかれた麻子は、焦点が定まらないまま小さく答える。
麻子はどんな時も真っ直ぐに相手を見る。
出逢った時も、仕事の時も。
そんな麻子が、自分の目を見ずに言うことなんて少しだって信用することなんかできない、と純一は思う。
「だったら、目を見て――……」
「結婚を、約束されてる方がいらっしゃいますよね?」
麻子はスッと立って、その時だけ真っ直ぐに純一を見てそう言った。
そしてその場に純一を置いて走り去ったのだ。
「――――芹ッ……」
すぐに純一も後を追ったが、麻子は止まっていたタクシーに素早く乗り込むと、流れる車に飲まれてそのタクシーは消えていなくなった。
「――――“結婚の約束”……」