好きになっても、いいですか?

「――――長、社長!」
「あ……。ああ、済まない」
「本日、午後1時よりのアスピラスィオン社との会談ですが。芹沢さんのスーツを、アヴェク・トワで用意致しましたがいかがですか?」
「――上出来だ」

(アヴェク・トワ……?)


麻子はその単語を知っている。

フランスに本社があるアスピラスィオンの商品で、高価だがデザイン・機能・素材、全てに於いて高い評価を得ており、女性の憧れブランドのひとつだ。

先程途中で敦志から声を掛けられたこともあって、麻子はそれに気付かず袖を通していた。

(アヴェク・トワとまで取引していたなんて)


入社して間もないし、しかも庶務にいたのだから知らなくても仕方がない。


「早乙女さん。まさか、私も同行するんですか……?」
「勿論です」

(何も知らないのに!?)

「君は黙って笑っていればいい」


純一が淡々とした口調で言うと、麻子を見た。


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