好きになっても、いいですか?


「濱名商事のアポイントメント取れましたので、このまま直行になりますが」
「構わない」
「手土産を用意致しましょうか」
「ああ……そうだな。何かいいものを」


車の中の後部座席に座る純一と、助手席に座る敦志の会話に耳を傾ける。
決して狭くはない車内だが、敦志が気遣っていつもは純一の隣に座っていた場所を麻子に譲った。

しかし、そんな気遣いは麻子にとってはありがた迷惑でしかなく。本心は、少しでもこの横暴な社長から離れていたかったところだ。


「確か……御夫妻で甘党だった記憶がありますが」
「敦志に任せるよ」
「あの……お花なんて、どうでしょうか」


純一と敦志の間で決まりかけた話に触れ、麻子が急に提案をした。
純一にすれば、“何を馬鹿なこと”という感じであったが、何せ“あの”麻子の提案。ただの思いつきじゃないかもしれないと瞬時に判断する。


「敦志、それでいい」
「え?――――はい」


敦志は純一の顔を見たあと、すぐに運転手に行き先を告げて前を向いた。
純一はというと、顔は動かさずに目だけで麻子の様子を窺っていた。

純一の視線の先で、麻子はただ外へと顔を向け、姿勢正しく景色を眺めているだけだった。


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