好きになっても、いいですか?

「どうぞ召し上がって下さい」
「サンドイッチ、と……おにぎり……」


その二つを同時に手にした純一の姿は、きっと誰も目にしたことがないだろう。
コンビニのサンドイッチとおにぎりを持っている藤堂コーポレーションの社長――。


「こんな、コンビニのものなんか食べたことがない」
「あら。最近のコンビニは評価が高いんですよ。スイーツなんかも。“社長”でしたら、幅広く視野を拡げていらっしゃいそうですし、そう言ったこともリサーチされてるかと」

(本当に可愛げない女だ……)


「……わざわざ、この為だけに戻ってきたのか」
「早乙女さんに言われましたので。『社長の身の回りのお世話を』と」


麻子はそれだけ言うと、体を180度回して社長室を後にした。


「なぜ、この組み合わせなんだ……」


呆気に取られたまま立ち尽くして、そうぼやいた。
そして今度こそ、麻子が帰社した姿を窓から確認すると、久しぶりに椅子に腰をおろした。

再び業務に戻りはじめようとして、ふと、サンドイッチに目をやる。


(もしかして、あえて、片手で済ませられるものを用意したのでは――)


純一は、慣れない手つきでサンドイッチのフィルムを剥がすと、それを一口頬張った。


「……まあまあだ」



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