好きになっても、いいですか?

「……」


純一は、ただ無言でそれを受け取ると、自分の手に収まったそのバッグと麻子を見た。


「コンビニはお口に合わなかったようですので」
「まさか」
「“自分の昼食のついで”、と言ったら申し訳ないですが。それと、普段、朝食も採られていないと思いましたのでこれも」


更に純一が渡されたのは、水筒のような形をしたもの。
これまた純一には、一切予想がつかない。


「今まで摂られてなかった朝食は、いきなりでは受け付けないかもと思いましたので。野菜のスープを」


流れるように、用件を全て告げた麻子は90度回り敦志を見た。


「早乙女さん、今朝は何からお手伝いしましょうか」
「え……えぇと……」
「……俺に指図を?」


体を背けられた純一は、麻子に一言そう漏らす。その言葉に、麻子はまた、体を正面に向きなおしてこう答えた。


「昨日も申しましたが、これが私の業務だと思ってますので。社長でしたら、社員の前で、ものを粗末にするようなこともされないでしょう?」


つらっと生意気なことを、丁寧な物言いで返してくるから敵わない。10近くも離れた小娘に。

純一は、ぐっと言葉を飲むと、そのまま受け取ったものをデスクに置いて椅子に掛けた。
そして近くの書類を手に取ると、くるりと回転させて死角をつくった。



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