好きになっても、いいですか?

「なぜ、私が早乙女さんにこんな不躾な条件を貴方に伝えて貰ったか、おわかりですか」


克己が穏やかに問う。
純一はそんな克己が、本当に病に伏せているのかと疑うほどの柔らかな雰囲気にのまれて、歯切れの悪い返事になってしまう。


「いえ……いや、なにかお叱りがあるのかと……」
「そんなことは言いませんよ。こんな現役から退いた、しかも、元々冴えないサラリーマンだった年寄りが。今や、業界で名を知らない人はいないであろう企業の社長さんに」


そして純一をしっかりと見据えて、はっきりとした口調で克己は続ける。


「早乙女さんがとても親身になる程の……そして、麻子を必要としている“藤堂社長”を一目、見たくてね」
「…………は?」

(早乙女とあいつが、なんだって?)


まるでついて行けないとばかりの顔を見て、克己は何かを悟って言葉を繋げた。


「何も報告を受けていない、という顔だ。そりゃそうでしょうね。いいとこ、『芹沢は金は一円だって要らないから、顔を出せと言っていた』とでも報告されてたかな」
「……」
「そのニュアンスだったら、私に“叱られる”と思って来たって当然だ!」


か細い声だが、実に愉快そうに克己は体を揺らして笑った。
純一は、まだ狐に抓(つま)まれた心境で立ち尽くしている。



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