好きになっても、いいですか?

「はぁ……」


入社して今まで、あんな風に見られたり、存在を気付かれたりなど無縁だった麻子はどうも気が落ち着かない。
一人きりになった部屋で、ほっと溜め息を吐く。


「芹沢さん」
「!!!」


そんな気を緩めていた時に、背後から声を掛けられて再び緊張が走る。
振り向かなくてもその声の主は敦志とわかったが、簡単に飛び上がった心臓は落ち着きそうもなかった。


「すみません、少し社長と商談をしてきますので」
「はい、わかりました」
「他に急を要する来客や外線などありましたら、教えてください」
「はい」


手短に用件を伝えると、敦志はすぐにいなくなった。


(電話……鳴らないでほしいな)


さすがに、麻子も慣れない仕事の前では逃げ腰だ。
いくら記憶力がよくて、勘が働く麻子も結局はただの新入社員。
全部が全部、ソツなくこなせる訳ではない。



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