探偵事務所は休業中

「拓実くんはともかくとして、ホム美さんは歌わないでください」

「えー……何で?」

「真由美ちゃんが怖がってるッスよ」

「……え?」

後ろを指差す霞に流され、振り向く焔美。

そこには、真由美がソファに座りながら微動だにせず、こちらを凝視していた。
思わず焔美も固まる。

「もう少しでできます。大人しく待っててください」

それだけ言い残すと、霞は再び台所に引っ込んでいった。

「おねえちゃん?」

拓実が不思議そうな目で彼女を見てくる。
焔美は力なく笑い、拓実の方を向いた。

「何でもないよ。怒られちゃったから、お歌はおしまい」

「うん!」

無邪気に笑う拓実に複雑な気持ちを抱きながら、焔美は電子ピアノの電源を落とした。

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