背に吹き抜けるは君の風

「……え。あの……っ」

「墨、ついてたよ」

「あ、ありがとうございます……っ」

悠人は汚れてない左手で墨をとってくれたのだ。

でも、そんなことなんかに気づいている余裕はなかった。

一気に熱は上がって、心臓が活発に動き出した。

まだ残ってる。

あの感触、あの温度。

突然の行動に、あたしは動揺しまくりだった。

だけど、困ったように視線を悠人に向けると、あたしの心臓はもう一度強く跳ねた。

悠人ってこんなに背高かったっけ、とか。

こんなに声、優しかったっけ、とか。

手は骨ばっててピアニストみたいな指で、肌の色も透けるように白い。

だから余計に髪の毛の黒さが際立って、あのブルーグレーの深い瞳に溺れそうになる。

「美南?」

ボーッとしていたあたしを不思議に思ったのか、悠人は首を傾げていた。

あたしは、慌てて「なんでもでない」と言って、手をブンブン振った。

その時、悠人の頬にも墨がついていることに気付いた。

白い肌とは正反対の黒。

今度はあたしが教えてあげようと口を開いた瞬間、

「ごめんな、その墨。」

「へ?」

「さっき窓を割って入ってきたの、俺の弟なんだ」

< 11 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop