背に吹き抜けるは君の風
「……え。あの……っ」
「墨、ついてたよ」
「あ、ありがとうございます……っ」
悠人は汚れてない左手で墨をとってくれたのだ。
でも、そんなことなんかに気づいている余裕はなかった。
一気に熱は上がって、心臓が活発に動き出した。
まだ残ってる。
あの感触、あの温度。
突然の行動に、あたしは動揺しまくりだった。
だけど、困ったように視線を悠人に向けると、あたしの心臓はもう一度強く跳ねた。
悠人ってこんなに背高かったっけ、とか。
こんなに声、優しかったっけ、とか。
手は骨ばっててピアニストみたいな指で、肌の色も透けるように白い。
だから余計に髪の毛の黒さが際立って、あのブルーグレーの深い瞳に溺れそうになる。
「美南?」
ボーッとしていたあたしを不思議に思ったのか、悠人は首を傾げていた。
あたしは、慌てて「なんでもでない」と言って、手をブンブン振った。
その時、悠人の頬にも墨がついていることに気付いた。
白い肌とは正反対の黒。
今度はあたしが教えてあげようと口を開いた瞬間、
「ごめんな、その墨。」
「へ?」
「さっき窓を割って入ってきたの、俺の弟なんだ」