蠱惑【密フェチSS集】

 昨夜、汗ばんだ額に張りついていた黒髪が今朝はホテルの真っ白なシーツに散っている。


 艶やかに鈍く光るその黒は、首筋をちょっと隠すくらいの長さ。

 多分、彼の髪はその一本一本を美しさを演出するために神様が愛でたんじゃないかと思う。神様にたくさん愛されて、この世に誕生してきた彼の髪は特別なんて言葉じゃ足りないくらい。


 ブランケットから突き出た裸の上半身はうつ伏せで、まだ眠りの真っ只中だ。

 浅い呼吸を繰り返す。世界中から持て囃された芸術作品のようで、昨夜の横暴さは嘘みたいに穏やか。

 首筋に流れる髪を指ですくい、彼を起こさないように鼻先をそっと寄せる。

 ここのホテルの高価なシャンプーの香りがして、私はうっとりと指を滑らせた。


 肩甲骨がくっきりと浮き出た背中が微かに動き、肩で適度に盛り上がるしなやかな筋肉に少し力が入った。


 昨夜、適当にしめた遮光カーテンの隙間から、朝日が差し込み、黒髪にあたるとキラキラと輝きだす。



「おはよ……朝だよ」



 広い背中に頬を寄せて、目を閉じた。

 両手で髪をすくいとり、髪を手のひらで包み、頭皮に指を這わせる。

 何度触っても、綺麗な丸い形をした彼の後頭部に感嘆のため息を一つ。

 それから、唇の先で彼の黒髪を感じる。


 パーフェクトだ。彼の黒髪には、文句のつけようがない…………この先もこんなに素晴らしい髪をもつ男に出逢えるとは思えない。



 その髪をサクリと甘噛みすると、ククッと笑い声が聞こえてきた。



「そんなに、俺の髪はいいか?」


「うん、最高」



 寝返りをうち、髪に負けないくらいに美しい彼の顔が冷たく私を嘲笑う。


「何度も俺の髪を触りながら、イってただろ。変態フェチ女」


 引き上げられた薄い唇から漏れる横暴な言葉。

 彼が何かを言う度に、綺麗な顔にかかる黒髪が揺れて、私は何を言われても不抜けた顔で彼を見つめることしかできない。


「もう一回イくか? どうせホテルを出たら他人になるんだから」


 真っ白なシーツに痛いくらい押し付けられて、私に馬乗りになった彼に小さく頷いた。

 重量に垂れた黒髪が、私を真っ直ぐと射抜く。



 この狭間、なんて居心地がいいんだろう…………



「こっちは髪触られてるだけじゃ気持ちよくないんだよ」


「だって……綺麗すぎるんだもん」


「ま、いいか。何言っても無駄だな。いいよ、好きなだけ触れよ」


 手を伸ばし、そっと黒髪を掴む。彼からの仕返しは、体中に電流が走るような荒々しい愛撫。


 愛情なんてない。ただ、互いにフェティシズムと快楽に溺れたい。




─────黒と白の狭間END



 
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