濡れ髪
濡れ髪
夏の暑い日差しが照り付ける午後、あたしと彼は近くの神社に来ていた。

付き合って一年。

社会人のあたしたちは、普段は仕事に追われ、なかなか思う様に会えない。

だから、今日の休日はとても貴重で、一週間ぶりに会えたこともあり、テンションは上がっていた。

「絵馬を書いてくるね!」

願い事が叶うと評判なここの絵馬に、あたしは近い未来の願望を書く。

「何を書いたんだよ?」

意地悪く覗き込む彼を軽く押しのけ、あたしはそれを掛けに行った。

と、その時。

さっきまで晴れていた空が急に雲に覆われ、ポツリポツリと雨が降り始め、一気にドシャ降りになったのだった。

「こっちだ!」

彼に引っ張られるまま、あたしたちは境内の屋根の下へやって来た。

ほんの数秒の事なのに、ひどい雨のお陰で、髪も服もグッショリと濡れている。

「ひどい雨だな?」

「あ、うん…。ホントに…」

雨に目を向けながら、彼は濡れた髪を両手で掻き分けた。

普段は無造作にアレンジされている髪も、今は濡れて後ろに流し、ポトポトと雫が落ちている。

その姿が、なんて色っぽいんだろう。

普段は、まだ学生の雰囲気が抜けない彼なのに、髪型が違うだけでグッと大人ぽくなる。

あたしの視線に気付いたのか、彼はゆっくりと顔を向けた。

濡れた髪からは、相変わらず滴り落ちる雫。

そしてその雫は、あたしの肩に落ちてきた。

「髪、顔にくっついてるぞ?」

笑顔を浮かべて、あたしの髪に触れる。

「ありがとう…」

間近で見れば見るほど、ときめいてくる。

そして、次の瞬間。

あたしたちの唇は重なった。

抱きしめる彼の髪から落ちる雫は、あたしの肩や頬を濡らす。

やがて雨は上がり、また日射しが照り付け始めて、あたしたちは離れた。

「絵馬の願い事、叶っちゃった」

笑うあたしに、彼も微笑む。

“もっと、ラブラブになりたい”

それは、突然の雨で叶ったのだった。

彼の濡れた髪に触れながら、あたしはまた一人ニヤけていた。


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