じらす視線
じらす視線
軽快に流れるPOPは、結婚式の二次会では定番になりつつある洋楽だ。

テンポがよく、少しヒップホップ調も混じり、自然と気分も乗ってくる。

今夜は、あたしの親友の結婚式の二次会。

ひときわこの夜を、楽しみにしていたのだ。

それは、“彼”に会えるから。

親友と共通の男友達。

あたしは、彼に半年の間片想いをしている。

そしてその気持ちを彼は知っていて、知らない振りをしていた。

新婦の隣で談笑する彼の視線が、あたしに向く。

吸い込まれそうなくらい、真っすぐ見つめる視線


会話を止めないで、笑顔も崩さない。

そんな風にあたしを見つめる彼を、小さく微笑み返す。

カクテルを飲みながら、時折話しかけてくる見知らぬ男の人たちの相手を適当にして、少し離れた場所から、あたしは視線だけを彼に合わせる。

分かっているんだから。

あたしに、ヤキモチを妬かせようとして、彼女の側から視線を送ってくる事くらい。

だって、彼女を好きだったものね。

いつだって、あたしより親友ばかりを見ていた彼。

その切なさとやるせなさは、彼女の結婚によって消えた。

どうする?

あなたの好きな人は、もう他の誰かのものよ?

店内に流れる音楽が、余計に気持ちを高ぶらせた。

重なり合う視線は、合ってはそらされ、また合って…。

あたしを視線だけでじらす彼に、あの夜を思い出す。

好きな人を失った寂しさを紛らわせる為に、あたしと体を重ねた夜。

今夜も彼は望んでいる…。

音楽と雰囲気の盛り上がりが最高潮になった時、彼があたしに向かってゆっくりと歩き出した。

まっすぐあたしを見つめながら…。

そしてまた、耳元で囁くように誘ってくるんだわ。

拒めない彼との夜が、あたしを待っているから…。

その見つめる視線から、目がそらせない。



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