黒い翼


ザワワ…と涼しい風が火照った体を冷やすように吹いていく。


「……なんて…?今何て言った?」


あたしの目の前で、信じられないというように目を瞠っている男が言った。


そんな顔すんなバカ。


胸が、痛い。


「…ごめん、ね」


まるで幼い子供のお気に入りのおもちゃを取り上げるような罪悪感から、あたしは彼から目を逸らす。


「別れてほしい」


喉になにか突っかかったような気分になったあたしがそれを言って、彼がどんな顔をしたのかは分からない。


地べたではアリンコが冬に備えてせっせと働いていた。


「……俺のこと、嫌いになった?」


少し掠れたような声に、胸を抉られるような感覚を覚え、あたしは首を振った。


馬鹿じゃねえの。


嫌いになるワケねえじゃんか…っ。


そんな言葉を何度も飲み込んで、下唇を噛む。


「理由…、聞いてもいい?」


彼の言葉に再びあたしは首を横に振った。


だってその理由は。


あたしが彼と別れる理由は―—


「俺は、お前の友達に戻れる?」


俯いているあたしから、ポタリと水が地面に落ちて、小さな白い塊を咥えている蟻を溺れさせた。


コクリと頷くと、フッと彼が笑ったような音がして、なんでお前が泣いてんだよと、彼があたしを抱きしめ、あたしの頭を撫でる。


胸が、痛い。


涙が、止まらない。


「ごめん、」


彼の腕の中が落ち着く。


「大丈夫…じゃないかもしんねーけど、」


彼はあたしを放して、目を見るように促した。


黒いツンツン頭の細マッチョで、陸上馬鹿が悲しそうな瞳をしている。


「俺は…ケイの友達だから」


そう言って、目の前にいるシキは悲しそうに笑った。

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