伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


部署移動で営業課にまわされて、早一年。


私、本橋 莉衣子は、最近じゃもっぱら、みんなから影で『パシリ』と揶揄される。

それは私の名前の所為なのか、それとも営業課きってのエース、宮根 航平の所為なのか。



「宮根さん。いつになったらハンコ押してくれるんですか」

「んー? 俺の気分次第?」

「いい加減にしてください」

「ふふ。莉衣子ちゃんは怒っても可愛いねぇ」


猫みたいな振る舞いなのに、飄々とした態度。

この男は、これで会社にとっての重要な契約をぽんぽん取ってくるのだから。



「セクハラ発言です」

「ひどいなぁ。褒めてるだけなのに。素直に喜びなよ」

「セクハラされて喜べと?」

「あ、いいの? そんなこと言ってたら、ハンコ押してあげなーい」

「なっ」


私は元々、事務職採用で、営業課に配属されたからといって、それは変わらない。

みんなが取ってきた契約の事務手続きや、それに伴う書類作成が主な仕事だ。



「今すぐハンコくれないと二度と宮根さんと口ききません。っていうか、呪います」

「怖いなぁ、もう。はいはい、わかったよ。俺の負け」


肩をすくめた宮根さんは、格闘から20分後、ようやく書類にハンコを押してくれた。


毎日毎日、この人はこんな調子だ。

初めはいじめなのかとも思ったけれど、この人のコレはどうやら元来の性格らしい。



「ねぇ、ハンコのお礼はないの?」

「ありません」


突っぱねてみても、宮根さんは無邪気な顔で笑うだけ。


仕事ができるチャラ男。

私の目には、宮根さんはそうとしか映らない。

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