伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


一ヶ月ほど前、阿部課長に食事に誘われた。

そこで関係を強要され、私は逃げた。


奥さんも子供もいる人と不倫するなんて嫌だし、そもそも阿部課長ってきもいからタイプじゃないし。


そしたら翌日からは、パワハラ三昧の、この仕打ち。

余計なことを喋られる前に、私に無言で退職を強要しているつもりなのだろうけど。



何で私が辞めなきゃなんないんだっつーの。



「いっそバラしてやろうかなぁ」


でも、そしたらみんなに知られるし。

そうなると、後で阿部課長にどんな報復をされるかわからない。


だからって、泣き寝入り?


耐えてれば飽きてくれると思ったんだけど、最近どんどんエスカレートしてるしな。

間違ってなかったはずのところをわざわざ書き替えてまで、阿部課長は、どうやってでも私を辞めさせるつもりらしいし。



立場が弱いと辛い。



私にもカレシでもいたら、結婚に逃げるという手もあったのかもしれないけれど。

そうじゃなかったとしても、相談くらいはできたはずだ。


何が一番辛いかって、人に言えないことだよ、うん。



「あれ? 美紀ちゃん、まだ残業してたの?」


顔を上げると、企画課の山辺さんが封筒を手にこちらに歩を進めてきていた。

時計を見ると、すでに夜8時を過ぎていた。



「山辺さんこそどうしたの? こんな時間に」

「保険の書類を提出するのを忘れてて。でも明日までだったし、課長さんのデスクに置いとけばいいかと思ったんだけど」

「じゃあ、私が預かっとくよ」

「ほんと? 助かるよ。よろしくね」


爽やかな笑み。

この人は、こんな時間まで会社にいるのに、まるで疲れを知らないような顔だ。


すごいなと思う。
< 95 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop