いきなり王子様
そして、建築の勉強を本格的に始めようと、その世界では有名な大学に入学した。
仁科夫妻や相模恭汰という日本屈指の建築士を輩出した大学と並ぶその大学では、思う存分に勉強し、建築の世界の可能性に惹かれた。
『建築デザインコンクール』という大きな賞を獲りたいという野望を持つ学生が多かった中で、俺はひたすら自分が将来住みたいと思うような家を設計しようと、それだけを楽しみながら学生時代を過ごしていた。
このことが吉と出たのか凶と出たのか。
結局、住宅建築で有名な会社に就職し、本格的に住宅の設計をしようと思っていたけれど。
入社して目の前に現れたのは、同期にして尊敬すべき男。
司の存在だった。
彼は、相模恭汰に憧れて、同じ大学を卒業し、同じ会社に就職。
相模さんの下で仕事をするにはどうすればいいのかと、入社後の研修で人事部に尋ねた有名人。
見た目がよろしく、猪突猛進型の仕事人間。
女の子からの人気も半端なものではなかった。
その熱意がかわれたのか、本人の希望通りに相模恭汰の直轄の部署に配属された。
本人いわく『夢の一つが叶った』らしいが、俺にしてみれば、自分の希望を叶える力を持っているというだけで羨望の気持ちが溢れる。
そして、そんな司と並んで、将来有望な新人と周囲から評価されていた俺だけど、結局は司のような花形部署ではなくて、本社から離れた工場の設計部へ配属された。
相模さんが人事権を持っているわけではないし、学閥があるとも思わないけれど、同じ大学を卒業していたり、あからさまに憧れを口にして相模さんへの尊敬の念をぶつける司と、俺のようにあっさりと全てを受け止め流すような温度の低い人間を比べれば、側に置きたいと思うのは司だろう。
『人生って、こんなもんだろうな』
それまで何度もそう言って諦めの想いを受け入れていた俺は、その時ですら何でもないように受け止め、配属先へと赴いた。