いきなり王子様
私が工場に出向いたのは、来月に予定されている工場見学会の打ち合わせの為だ。

所属している『経理部IR課』が主催する、投資家向けの工場見学会は、年に一度行われる大切なもの。

IRという、投資家への広報活動を、熱心に行う会社は最近増えていて、わが社もその例外ではない。

入社して以来IR課で働く私は、その言葉すら入社して初めて知ったけれど、その内容ゆえに全社の協力も必要なせいか、幅広く社内事情を知る事ができるやりがいのある仕事だと思っている。

来月に予定している工場見学会には、大勢の投資家が集まり、会社の経営状況をはじめとしてあらゆる事を伝える。

工場を案内して、会社を知ってもらうのも大切な事。

「経理部の部長さんから連絡もらってるよ。女の子一人が伺うけれど、仕事はできるからなめないでやってくれってね」

「なめないで……って……」

「はは、こんなに可愛い女の子が一人で来たら、そりゃ不安になるよ。
ちゃんと仕事してくれるのかなってね。
まあ、俺は可愛い女の子大歓迎だよ。仕事もできて可愛いなんて最高だ」

席についた新見さんは、書類を広げながら大きく笑った。

その朗らかな笑顔が、緊張気味の私の気持ちをほぐしてくれる。
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