いきなり王子様


今日竜也がこの家に来た理由は、璃乃ちゃんの世話をするため。

璃乃ちゃんの弟の璃久くんが出るサッカーの試合の応援には、ご両親だけが行くらしい。

璃乃ちゃんが置き去りにされるこの状況に、私が疑問を感じるのは不思議ではない。

けれど、目の前でおいしそうにパンケーキをほおばる璃乃ちゃんを見ていると、その疑問をどう受け止めればいいのか悩んでしまう。

「おい、璃乃、シロップこぼすなよ。かわいい服がべとべとになるぞ」

璃乃ちゃんの隣に座ってコーヒーを飲んでいる竜也は、慣れたように璃乃ちゃんの口元をティッシュで拭いている。

「竜也お兄ちゃんは、食べないの?」

「ん?俺は奈々と一緒に朝ごはんたっぷり食べてきたからいい。
それに、璃乃のお母ちゃんが作るパンケーキは小さい頃からいっぱい食べてるから、全部璃乃が食べろ」

「ふーん。奈々ちゃんと一緒に食べたんだ。いーなー。
璃乃も、奈々ちゃんが作ってくれたおにぎりを食べた事あるよ。
炊き込みご飯のおにぎり。ねー」

「ほら、口をもぐもぐさせながら食べるとこぼすぞ。
食べるか話すかどっちかにしろ」

「はーい」

竜也に口うるさい事を言われながらも、特に気にする事なく、へへっと笑う璃乃ちゃんは、私に大きく笑いかけて首を傾げた。

子供なのに、大きな目の周りを縁どるかのような長いまつげを揺らしながらの笑顔はあまりにも可愛くて、今すぐ子供モデルでもできそうな完成形。

「璃乃、奈々ちゃんのおにぎりいっぱい食べて、病院の検査を頑張ってたんだ」

思い返すように私を見つめる瞳はとても楽しげ。

家族の中でたった一人お留守番となったこの状況に、なんの寂しさも覚えていないようなその様子は、やっぱり妙だな、と思う。

私のそんな気持ちを察したのか、竜也が私を見つめて、小さく頷いた。


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