114歳の美女
 「ああ、分かりました。いいですか」


 暫く間があり、女性の職員の声がした。

 
 「どうぞ」
 「え~と、朝夕新聞社にお勤めですね」


 「朝夕新聞社。あ・り・・が・・と・・・う・・・ご・・・」


 ときは携帯電話を持ったまま、へなへなとその場に座り込んでしまった。


 「間違いない。何で。何でやの・・・。うっううっうう」


 ときの目から涙が落ちた。涙が零れても零れても、新しい涙が生まれて落ちて行った。


 「うちの大切な人は、みんな、みんなや。何で。何で。何で。何でやの。神様はいけずどす。うちの大切なモノばかりを奪って行って・・・」


 ときは両手を畳に付いて泣き崩れた。

 「返して。返して。お願いやから返して・・・」

 ときは頭を畳に擦り付けた。


 「ひどい。ひどい。酷い。うちがいったい何を・・・」
 ときが畳を右手の拳でばんばん叩いた。


 「返せ。返せ。返しやがれ!」


 ときが恨み言を言って、大粒の涙を零した。
 畳の上が、ときの涙で薄っすら地図になっていた。






< 287 / 321 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop