分かんない。
母の過去



私が初めて恋をしたのは
高校2年の春だった。
転校してきた同級生に恋をした。
だけど彼は私に
暴言ばかり吐いた。

「ばーか。お前どんだけ
背がちいせえんだよ。ホントちっちぇー」

私の中の、ソイツのイメージは
悪魔以外のなにものでもなかった。
高校生になっても
幼稚な男は幼稚なままなのね。
私はそう、心の中で
ソイツを憐れんで笑っていた。
だけど、私は、ソイツの事が好きだった。
どうしてか、気持ちが変わらない。
どうしてこんな酷い男が好きかな。
だけどそんなある日。

「なあ。俺さ」

突然私だけに話しかけていたソイツ。
いつもとは違う真面目な顔をしていた。

「何よ」

私はソイツの事が、大嫌いで、大好きだ……。
ばくばくと揺れ動く心臓を
掌でこっそり押さえながら話を聞いた。

「引っ越すんだ」

思わず目を見開いてしまった。

「元々うち、転勤族でさ。
この高校に来た時から
もう決まってたんだ」

「い、いついくの……」

「一週間後。しかも公には出さない。
知るのは先生だけだ」

「どうして私に教えてくれたの?」

「本当は……好きだからだ。
ちっちぇーとか言ってたけど
そこが可愛くて、
守ってやりたいって思ってた。
お前が俺の事好きかは知らねえけど……
もう会えないだろうけど……
メアドとか交換してほしい」

嬉しかった。私も自分の気持ちを
伝えようと思ったけれど、
彼はそんな暇さえ与えず、
家に帰ってしまったのだ。

それから一週間後。
本当に彼は学校から姿を消した。
元から口の悪かった彼だから
悲しんだりする人はいなかった。
そっか……
友達を悲しませないために
わざとああやってふるまってたんだ……。

気づいた時には遅かった。
もし。



もう一度会えたら。




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