分かんない。



「分かったら、
お前が選んだ道を歩け」

父が手を離した瞬間に
圭祐は部屋を飛び出して帰った。

「………美佐、大丈夫か?」

父の優しい声がかかる。
うんと頷いてみるけれど
1つ疑問が浮き上がった。

「父さん、仕事は?」

父さんは明らかに
黒いスーツを纏ったサラリーマンだった。

「あー、早く終わったし
誰にも飲み会に誘われなかったから
真っ直ぐ家に帰って
妻と子の顔を見ようと思ったんだ。
んにしてもすげぇ偶然だなー。
俺本当早く帰ってきてよかった」

「あはは、父さんたら。
…お母さんもお父さんもありがとう」

私はベッドから降り、立ち上がった。
父は苦笑いをしていた。

「ははは、礼なんて要らねえ。
お前が無事なら何よりだ。
でも感謝されるのも悪くねえかも」

父は格好をつけてみたかったのだろう。
だけど私は素直が好きだ。
きっと母も私と同じだ。

「ふふふ、素直で素敵よ、務」

母は父の頬に軽くキスをした。
この2人は子供の前でも
平気でキスを交わしたり
イチャついたりする。2人曰く、
どうせ知るんだからいいじゃん。
らしい。
しかし夜の営みの方は
流石にしない。
というかしたら引く。
人飲めも気にしないほどに
愛し合う2人。
私はそれをとても羨ましいと思う。
だから、この2人が
喧嘩をして別れる、
なんて事はまずないだろう。
私が中学生になった今でも
気持ち悪いくらいに熱いのだから。

母と父が部屋を出た後、
携帯を開くとメールが来ていた。
2件届いていた。
1つは圭祐から。
今日の事は謝るけれど、
決して私を諦める事はない。
との事だ。
もう1つは川上からだった。
大晦日に要るものや、
母と父に挨拶しに行くから
予定聞いておいて。
との事だった。
父なら今しかいないだろうから
今だよ、と伝えると
川上はすぐに飛んできた。
母も父も賛成してくれた。
川上が帰ったあと、
母が茶化すように言う。

「きゃ〜、美佐モテモテ!
ねぇ務、モテるわよねぇ」

父は少し拗ねているようだった。
母はそれを見てケラケラと
笑っているだけだった。



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