分かんない。



「綺麗な手だね。
肌触りが最高だよ、もう……」

「やめて……!」

彼はいやらしく
私の腕を撫で回していた。
おっさんみたいだw
ガタン……
心做しか、
車に何か当たる音がした。

「ん、なんだろ。
待っててね、美佐ちゃん」

待つわけがないでしょう……
そう思った私は
川上の兄さんが運転席に
上半身を突っ込んだ瞬間に
鍵を開けてドアを開いた。
必死だった。
車から出ると、
川上がすぐに私を支えてくれた。
私の肩を大事そうに抱え、
心配そうな面持ちで
私の顔を覗き込む。

「どうした、神埼?」

「美佐ちゃぁん、何もなかった。
てか逃げんなよぉ〜
続きやろ〜、逃げてもムーダ」

私はその声に硬直した。
川上もおかしいと思ったのか
顔をしかめ、兄に話しかけた。

「兄貴何してんだよ」

「あっ、いや。ははは。
それはそうと克哉、
随分と早いんじゃないか?
歩いてきたのか?」

「ああ。というよりは
兄貴が神埼連れてくんのが
やたら遅いから
歩いて様子見に行っただけだけどな。
なんか神埼が怯えてるんだけどさぁ。
兄貴何かした?」

川上の兄さんは困ったように笑った。

「はは、俺が?するわけないだろ。
ね、美佐ちゃん?」

「えっ?え、あ、あの」

いきなりふられて、
しどろどろになってしまった私。
川上は妙に納得している様子だった。

「へー、ああ、そうなのか
なんでもねえのか。
じゃあ大丈夫だなぁ」

違うよ、川上……
貴方の兄は………。

「でもさぁ〜、おかしいよなぁ〜
こんな所にわざわざ車止めてさ、
外では神埼の怯えきった声がするしさ、
運転手である兄貴が
何故か後ろの席から出てくるしさ。
しかも兄貴の声で神埼が硬直するし」

「……家、行こっか」

川上の兄さんは
明らかな焦りを浮かべた表情で
運転席へ戻っていった。



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