《短編》空を泳ぐ魚2
「…何なのよ、もぉ…!」


どこまで走り抜けたのか。


呼吸を整えながらあたしは、悔しくて唇を噛み締めた。


いっつもヘラヘラしてるくせに、さっきの目はマジだった。


そうだよあたしは、初めからアイツを利用してたんだ。


アイツだって、それで良いんだと思ってたのに。


卒業しないなら、アイツと切れたって何の問題もない。


なのに何でアイツは、あたしなんかのことでキレるの?


あたしなんか、必要ないじゃない。


誰からも、必要となんてされないじゃない。


誰も、あたしの気持ちなんてわかってくれないじゃない。



夢なんてなかった。


目標だって、持ったことがなかった。


お母さんは勝手に死ぬし、お父さんは勝手に再婚するし。


妹は勝手に産まれるし、学校ではいつも“問題児”のレッテルを張られるし。


望んだって何も叶わないし、ましてやあたしが何をしようと誰も気にも留めない。


寄ってくるのは、あたしの外見ばかりを見る男。


だから逃げたくてライブハウスに通って、みんなと友達になったのに。


だけど正直、輝いてるみんなに醜い嫉妬心さえ覚え始めて。


好きなことして、ファンのみんなにチヤホヤされて。


夢も目標もないあたしには、眩しすぎたんだ。


そんな中にあって岡部だけは、あたしの“自由”を許してくれていたのに。


少しだけ、居心地が良かったのに。


怒るアイツなんか、好きじゃない。


頼むから、あたしの中に入ってこないで。


どう接すれば良いのか、わからなくなる。


これからどうすれば良いのかも、何もかも。


何ひとつ整理出来ない頭の中に、考えることばかりが増えていって。


消化不良で、死んでしまいそうだ。



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