《短編》空を泳ぐ魚2
「セナちゃん、ちょっと良い?」


バイトの終わり、店長に呼び止められた。


“どしたの?”と言いながら、店長の向かいの椅子に腰を降ろす。



「…この雑誌、知ってるよね?」


そう言って差し出されたのは、地元のバンドを取り上げるマイナー雑誌。


これに載ればこの辺り一帯で認められた証拠のような、

みんなが憧れる雑誌だ。


もちろん、あたしだって知っている。



「…実は今、人手不足らしくてね?
セナちゃんもし就職決まってなんなら、どうかと思って。」


「―――ッ!」


瞬間、目を見開いた。



「…インタビューしたり、ライブレポ書いたりなんだけど。
セナちゃんなら、うってつけだと思うんだ。」


まだ言われていることが上手く理解出来ないあたしに、

迷っているのかと思った店長は、優しく言葉を続けて。



「…音楽を世に出すってのはね、バンドのメンバーが居るだけじゃダメなんだよ。
レコーディングに携わる人も、PRする人も。
果ては楽器屋の人とか全てが携わることで、出来あがった音楽が世に出るんだ。」


店長はそう言いながら、楽しそうにお酒の入ったグラスをまわす。



「…関わる全てのものがあって、音楽は出来上がるんだ。
それを広める手助け、してみない?」


「したい!したいです!!」


身を乗り出しあたしは、目を輝かせた。


音楽は好きだった。


だけど、作り上げるような人間ではないことくらいわかってた。


あたしはずっと、嬉しそうに音楽を語るやつらが好きだったんだ。


そんなみんなの、あたしが手助けになれるの?



「…じゃあ、伝えとくよ。」


「お願いします!!」


笑顔を向けてくれた店長に、しっかりと頭を下げた。


これが魚雲のおかげだとするなら、ホントに凄いパワーだと思う。


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