珈琲の香り
「…――蒼くん。手、離そうよ……」

「何で?」


何で?って……

わかりませんか?校内をすれ違う女の子たちの目……

すごい怖いんですけど……

さすが、校内で知らない人はいないんじゃないかってくらい、有名人。

そんな人が、私なんかと手を繋いでると……


「……新堂くんの隣の女、誰?」

とか

「何で桜ちゃんじゃないの?桜ちゃんの方がお似合いなのに」

なんて言われるんだよ。

わかってますよ。私が釣り合わないことぐらい……

自分でもビックリだもん。

蒼くんの言ってくれたこと……


「樹。気にしないの!僕が好きなんだから。僕が樹を選んだんだよ?もっと自信をもって!」


そう言って、繋いだ手に力がこもる。


「そ、そうだよね!」


そう。蒼くんが好きだって言ってくれたんだもんっ!

それに、蒼くんと付き合ったら、こうなることぐらいわかってたもん!

それでも好きになったんだから……

こんな目に負けてたまるかっ!


気合いだ!気合い!!

好きな人とお付き合い始めたんだ!

こんな……こんなことに負けないっ!
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