珈琲の香り
「…参ったな……泣くなよ。」

「泣いて……なんか………ふぇっ………」

「泣いてんじゃねぇか。………悪かったよ」


涼さんの手が、頭をポンポンとする。

その手が大きくて、優しくて、また涙が溢れてくる。

涙、止めたいのに……

涼さんの手が、また涙腺を緩ませる。

大きくて、暖かくて、優しい手。

きっと、風花さんにもこうしてんだろうな……


そう思う自分が嫌だ。

私…子供みたい……

欲張りな子供……


「……もう泣くな」

「え……」



気がついたら、涼さんの腕の中に……いた。

そっと香るコーヒーの香り。

暖かな温もり。


ドクン、ドクンッて涼さんの心臓の音がする。


「な、何してんですか……」

「ん?何って…子供って抱っこすると泣き止むだろ?そんな感じ?」

「は?」

「何ならたかいたかいもしてやろうか?お前くらいなら持ち上がるぞ」

「ふざけ「何してるの?」」


驚いて振り返ると、ドアを開けたまま固まった蒼くんが、いた。


「…蒼くん……」

「何してるか聞いてる。」

「何してるって……」


初めて聞いた、蒼くんの冷たい声。

いつも静かで、何があっても冷静で。

そんな蒼くんの冷たい声が、私の心を凍らせる。

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