桜が求めた愛の行方

13.親友のアドバイス

勇斗が一人で帰宅しようと外に出たところに
見覚えのある黒塗りの高級車が止まった。

後部座席の窓が開いて、蒼真が顔を出す。

『今、帰りか?』

『ああ』

『俺も帰るとこ、乗ってくか?』

『いいか?』

『もちろん』

都心に住む零士と崇と違い、
妻帯者である蒼真と勇斗は実家のある
高級住宅地にマンションがある。

蒼真は考え事をする勇斗を見て、
しばらく黙って、窓の外にながれる
高層ビルの夜景が公園やマンションに
変わって行くのを眺めていた。

『なあ?一度聞いてみたかったんだけど?』

深いため息をついてばかりの勇斗に
蒼真は、なんとなく問いかける。

『なにを?』

『名前が変わることに抵抗はなかった
 のか?』

『はあ?』

『おまえは長男だし、幼い頃から佐伯商事を
 継ぐつもりで勉強してきただろ?』

それは伝統を重んじる世界に身を置いている
蒼真らしい疑問かも知れない。

蒼真は書道と陶芸のどちらにも才能が
あった。だが、高校の時にある公募に出品
した作品が認められたのを機に、
書家の道に進むことを決めた。
惜しい才能だと多くの美大等から誘いが
あったが、陶芸は趣味にすると言って
大学卒業後は祖父に弟子入りすることを
早々に決めてしまった。

『抵抗は……なかったっていうか、
 おかしな話なんだが、
 昔から藤木にいる方が落ち着くんだ』

『そうなのか?』

『こんなこと言うと誤解されると思って
 ずっと黙っていたんだが……』

『なんだよ?』

『うーん、やっぱ上手く言えないな』

『言いかけて止めるなよ!』

『父親の考えに添えないんだよ』

『そんなの俺だって……』

『いや、そういうのと違うと思う。
 何て言うか、ほら、ああ俺はこの人の息子
 なんだなって感じる瞬間がないんだよ』

蒼真が眉根を寄せる。
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