桜が求めた愛の行方

5.田所透

パリに本店のあるこのスイーツカフェを
待ち合わせ場所に指定された時さくらは、
驚きと共に純粋な喜びを感じた。

本店と同じ装飾で19世紀の雰囲気を
再現したモダンな店内。
まさか日本でこのお店に入れるなんて!

メニューとにらめっこする。

『お薦めは季節のムースです』

遅れてきた田所が向かいの席に座りながら
さらっと言うから、さくらは瞳を丸くして
しまった。
しかも、お水をもって続いて来た
ウェートレスに《いつもので》なんて
言うから更に言葉を失う。

『さくら様?』

コホンッと咳払いされて我に返った。

『え?あっ、じゃあ季節のムースと
 カフェオレをお願いします』

ウェートレスは田所に、にっこり笑って
《かしこまりました》と下がって行った。

『マカロンもお薦めです』

すました顔で言われて、さくらは瞳を
パチパチさせてしまう。

『ご、ごめんなさい…ちょっと意外過ぎて』

『いえ、構いません。甘党なのが見た目と  違っているのは自覚していますから』

『そう……あっ!そう言えば、
 確かパリに来た時も私のマカロン
 全部食べてたわね』

『はい、あれは絶品でした。
 あれ以上には未だ出会えていません』

まるで美食家の評論のように言われて
さくらはくすぐったい気持ちになった。

『それは光栄だわ、言ってくれたらいつでも  作って差し上げるのに』

『本当ですか!!』

その勢いに驚いたのは、言った本人の方
だった様で、しまった!と少し顔を
赤らめている。

『失礼しました』

さくらは店内に響くのも構わず声をたてて笑ってしまった。



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