桜が求めた愛の行方
勇斗はこの1週間、ここまでしてくれた
さくらをどうしたら助けられるか、
自分なりに考えていた。

婚約破棄するのはそう難しくない。
正直、両親がここまでするとは思わなかったが、それでも受け入れただろう。

けれど、追い立てられてふと考えてみた。

それで、さくらはどうなる?
この5年俺と婚約していた事で彼女が得した事があるだろうか?
それだけじゃない、破棄することで
何もないのに傷物扱いされ、
あらぬ噂や中傷をされてしまう。

ここまで放っておいた俺が全て悪いのに。

『色々考えるうちに、そもそもどうして
 じい様がおまえとの結婚を条件にしたのかが ひっかかったんだ』
『それっ』
勇斗は人差し指で可愛い口をふさいだ。

『しぃーっ。今は俺の話を聞くんだ』

幼い頃から藤木家とは家族ぐるみの付き合いをしていたので、じい様の事も本当の祖父のように慕っていた。

『なぜ俺だったんだろう?』

『悲しむ事じゃないわよ?』

さくらが心配そうな瞳で見上げてくるから
首を振った。

『あのとき……
 要人さんが急に逝ってしまっただろ?』

そう言ってから、しばらく目を閉じた。

このホテルが改装を始めたあの時から、
さくらのお父さんの事はおじさんではく
要人さんと呼ぶようになっていた。

俺の手にさくらの手がそっと重ねられた。

瞳を開けると、同じ悲しみを理解している
瞳がそこにある。

『パパとあなたは昔から仲が良かったわ』

呟くさくらの頭を優しく撫でた。
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