桜が求めた愛の行方
勇斗が話を続ける。

『会長派と社長派の攻防戦は要人さんの急逝に よって、当然会長派の有利になる。
 そこでおまえの登場だ。
 跡継ぎであるおまえの相手に必然的に
 注目が集まった。
 社長派はあの時すでに自分達の中で、
 おまえの相手を見つけていたらしい。
 会長はゆっくりおまえの相手を探す時間が
 なかったんだ。
 そこへ都合よく佐伯の融資の話がきた。
 家には運よく息子が二人いる。
 おまえより年下で、あの時はまだ高校生の
 真斗と婚約させるのは無理があった。
 何故ならじい様はすでにいい年だ。
 後継ぎが成長するまでの時間がかかり
 すぎる。だから融資の条件にして、
 長男の俺だったんだろう』

彼の言うことは、ほぼあっている。

『俺達の婚約で当面の問題は片付いた。
 でもここで婚約破棄したら?
 終息したように見えて実際問題、
 今の藤木の業績はかろうじて平行線だ』

『そうね、私の相手探しに保守派と改革派で
 醜い争いが始まるわ』

『両親はその事をわかっている。
 もし婚約が白紙に戻れば、親友の一人娘は
 あらぬ噂と中傷を受け、なおかつ新しい
 相手が見つかるまで振り回され続ける、
 だろ?
 俺だってそんなことは絶対に
 させられない!』

『いいのよ、あなたには関係ないわ』

『いや、関係あるね
 おまえはこのまま俺の家が段ボールになって もいいと思うのか?』

『そんな事にはならないわよ』

『俺が藤木家に入って、いずれおまえに
 全てを託すよ』

『託すって……』

違うの!
私はそんなの望んでいない。

『おまえがどうするか決めるんだ。
 そしたら離婚でもなんでも、
 おまえの好きにすればいい』

『離婚っ……』

あっさりと、離婚という言葉を口にされて
塞がっていた傷口が、開いたような感覚を覚えた。
5年前のあの時と同じだわ。
この人は本当に私のことなんて
何とも思っていないんだわ。

重ねていた手がひんやりして、そっと離した。

『心配するな、何年もかかるつもりはない』

自信たっぷりに言われて、愛のない結婚になんの抵抗もない彼との温度差を思い知った。

彼が、ほんの僅かでも私を愛してくれる
かも知れないなんて考えたなんて、馬鹿ね。

でもこれで望みが繋がった。
後は田所さんに任せるしかない。

さくらは自分で回した歯車が動き出した事に
悲しみと共に安堵した。
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