桜が求めた愛の行方

エピローグ

エピローグ

ザ・ホテルトキョー総支配人立木は
最後の仕事をしようとしていた。

このホテル自慢の庭園は、いつもと変わらず
美しく春のうららかな日差しをいっぱいに
浴びて、草木が芽吹こうとしていた。

もうすぐ桜の季節がやってくる。
エントランスの桜トンネル目当ての
お客様で、今年も賑わうことだろう。

今年の藤木ホテルは、どこも忙しく活気に
溢れているはずだ。
坊っちゃんは…いやもう坊っちゃんではない
勇斗社長は、本当に素晴らしい仕事を
なさっている。

軽井沢の首脳会議にはお手伝いに行った方がいいだろうか?

立木は今後も教育係として、残るよう
打診されていた。


『こんにちは、立木さん』

『さくらお嬢様』

『もうお嬢様はなしよ』

『そうですね』

立木は、大きくなったお腹を愛しそうに
撫でて微笑む彼女に目を細めた。

要人社長はきっと天国で満足されている
ことだろう。


『今日で引退だってお聞きしたわ』

『はい、お世話になりました』

『寂しくなるわね』

『ありがとうございます。
 ところで、お嬢様』

さっき言った事を忘れている立木に
さくらは微笑んだ。

『なに?』

『そこの小さな立て札にある字ですが……』

さくらは〔咲良〕と書かれた文字を見た。

これのせいで母がパパと距離を置いてしまったのだろうと、勇斗が言っていた。
立木さんが何を言おうとしているのか、
何となくわかった。

『いいのよ、それはパパの秘密で』

『秘密?いいえ、要人社長…お父上は、
 いつだったかこう話しておいででした』

立木は桜の樹をポンポンと叩いた。
脳裏にあの日の要人社長の声がする。

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