桜が求めた愛の行方

『これがそういう意味だったとは…』

勇斗は彼女を後ろから優しく抱き締めて
膨らんだお腹の上で手を組んだ。

『要人さんの言葉、娘にも教えてやろう』

『あら、いつ娘だって言ったかしら?』

さくらの手が重ねられて、
勇斗はこの瞬間の幸せを噛み締めた。

『どちらでもいいさ……』

穏やかな風が二人に春の香りを運んできた。

『えっ……勇斗?』

手に落ちてきた雫に、さくらは驚いて
身体を反転させた。

『ん?あっ……』

彼女の手が頬に当てられて、
自分が涙を流していることに気づき、
勇斗自身が驚いた。

『すまない……』

『いいのよ……』

さくらにはわかっていた。
パパの言葉は私だけに向けられたものでは
ないのだと。

勇斗は少しの間、柔らかな匂いのする肩に
顔を埋めた。
背中を優しく上下する手には
労りや慰めでだけでない、確かな愛情が
込められていた。

要人さん、俺もあなたの様に大きな愛で
家族を見守る男になります。


顔を上げた勇斗の表情は晴れやかな
ものだった。


『咲いて良いんだ、さくら!
 俺たちは何度だって咲いてみせよう』


『ええ、幸せを何度でも咲かせましょう』







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