桜が求めた愛の行方
気付くと空が明るくなっていて
一人ソファーに寝かされていた。

よろよろと起きて要人おじさんを探すと、
隣の部屋で机に向かって仕事をしている。

真剣な顔で書類に何か書き込む姿を見て、
単純に格好いいなという気持ちが湧いてきた。

『おっ、起きたか』
要人おじさんが手を止めて顔をあげた。

『ねえ、要人さん、て呼んでもいい?』

要人おじさんはぐっと口を強く結んだあと、
嬉しそうに笑った。

『ああ、かまわない』

『それなに?』

プールの図面とレストランのイメージ画が
机一杯に広げられている。

『ここを改装するんだ』

『ねえ、このレストランて一階だよね?』

『ああ』

『前から思ってたんだけど、
 ここをガラス張りにしてさ、
 もっと庭全体を見渡せるようにしたら
 良くない?』

『なぜそう思う?』

『このホテル堅いんだよね、この都会で
 リラックスできる要素が満載なのに
 森林は擁壁みたいじゃね?
 ま、隠れ家的にはいいのかな?』

『……………………』

沈黙が続いた。
余計なこと言ったかな、と思った瞬間。
要人さんから思いがけない言葉が出た。

『勇斗、おまえ暇なら手伝わないか?』

『は?』

要人さんは怖いくらいに射るような瞳をして
俺を見てから、腕で瞳を隠してドサッと
椅子の背にもたれた。

『いや、なんでもない』

『………いいよ別に。どうせ暇だし』

『そうか。ならば好きな時にここへ来い』

その日から要人さんに懐いて、
このホテルの改装を時間が許す限り一緒に手伝っていた。
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