桜が求めた愛の行方
車を駐車場に入れて歩き出すと、
向かう先に気づいたさくらが慌てたように
腕を引いた。

『ん?』

『あそこは予約していないと入れないと
 思うわよ?』

『予約したから大丈夫』

ニューヨークに本店のあるセレブ御用達の
有名宝石店は、以前利用した事があるから
知っている。
疑いの眼差しを向けられて苦笑いする。

眉間にそっと指をあてた。
それはこの3カ月、さくらをなだめる時の
お決まりの仕草になっている。

『でも、あんな高級店に用はないでしょ?』

勇斗は驚いて瞳を見張った。

『あの店はお嬢様の趣味には合わない?』

『まさか!あそこのジュエリーは
 女の子の憧れよ』

『ならば、いいじゃないか』

『私はいらないから』

きっぱり言い切る彼女の本心を探るように
顔をのぞきこんだ。
遠慮している訳ではなさそうだ。

『なに?』

『わかった。店は変えよう』

『そうじゃなくて、そもそも指輪なんて
 必要ないでしょ?』

『ダメだ!』

『おばさまの事を気にしているなら、
 自分で持っている中から適当に選んで
 見せるから……』

『そういう訳にはいかない!』

母の恐ろしげな顔を思い浮かべ、
断固として言った。
母さんを怒らせる位なら、
指輪の一つや二つ安いものだ。

『母さんが気づかないはずがない』

『でも、離婚することがわかっているのに、
 大金を使うことないわ』

『離婚……』

ハンマーで頭を殴られたようなショックに
その場に立ち止まった。

『だって、とりあえずって、
 いずれ離婚するって、
 あなたが言ったのよ?』

くそっ、またそれか!!

とりあえず、は、確かに俺が言った。
離婚でもなんでも……
そんな様な事を言った気もする。

離婚……
彼女の口からはっきり言葉にされると、
驚くほど衝撃を受けた。
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